固有ベクトルを共有する対称行列の積は可換
以下の命題が成り立つことを利用することがあったので、その証明と具体例をまとめておく。
命題
Proposition 1
A,B∈Rd×d を固有ベクトルが同じ対称行列とすると、AB=BA が成り立つ。
証明
A,B が対称行列かつ固有ベクトルが同じであることから、直交行列 P と対角行列 Λ,M を用いて以下のように対角化できる1。
AB=PΛPT,=PMPT.
このとき、積 AB は次のように計算できる。
AB=PΛPTPMPT=PΛMPT.
同様に BA を計算すると、
BA=PMPTPΛPT=PMΛPT.
ここで、対角行列同士の積は可換であるため、ΛM=MΛ が成り立ち、したがって
PΛMPT=PMΛPT
となる。よって AB=BA である。□
具体例
A∈Rd×d を対称行列とすると、以下の行列は A と同じ固有ベクトルを持つ。
- 逆行列が存在すれば A−1
- 対角成分に λ∈R を足した行列 A+λI
それぞれについて証明する。
1. 逆行列 A−1 の場合
A の固有値と固有ベクトルを {(λi,xi)}i=1d とする。すると、
Axi=λixi
が成り立つ。A−1 が存在すると仮定すると、両辺に A−1 を掛けて
A−1Axi=A−1λixi
より、
xi=λiA−1xi.
したがって、
A−1xi=λi1xi.
つまり、A−1 の固有値と固有ベクトルは {(1/λi,xi)}i=1d であり、A と同じ固有ベクトルを持つ。
2. A+λI の場合
同様に A の固有値と固有ベクトルを {(λi,xi)}i=1d とすると、
Axi=λixi.
両辺に λIxi を加えると、
Axi+λIxi=λixi+λIxi.
ここで、Ixi=xi であるから、
(A+λI)xi=(λi+λ)xi.
したがって、A+λI の固有値と固有ベクトルは {(λi+λ,xi)}i=1d であり、A と同じ固有ベクトルを持つ。□
まとめ
- 固有ベクトルが共通する対称行列同士は可換である。
- A の逆行列 A−1 や、A にスカラー倍の単位行列を加えた A+λI は、A と同じ固有ベクトルを持つ。